【臨床検査技師によるAI論文解説】ディープラーニングによる超音波画像判定。非アルコール性脂肪肝を判断

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    目次

    導入

    非アルコール性脂肪肝疾患は、肥満患者を中心に近年増加傾向にある肝疾患であり、早期の画像診断が重要とされています。
    中でも腹部超音波検査は、非侵襲かつ繰り返し実施できる手法として現場で広く活用されていますが、画像の解釈には検査者の熟練度が大きく影響し、定量的・客観的な診断が難しいという課題があります。

    本研究では、複数の深層学習モデルから抽出した特徴量を統合し、それをサポートベクターマシン(SVM)により分類する「組合せ型AIアルゴリズム」の有効性が報告されています。
    この手法により、専門家の関与を最小限に抑えつつ、高精度な脂肪肝の分類が可能となることが示唆されました。

    研究の要点まとめ

    • AI手法
      • Inception-ResNetV2
      • GoogleNet
      • AlexNet
      • ResNet101
      • SVM
    • 新バイオマーカー
      • 超音波画像の深層特徴量(非侵襲的指標)
    • 精度指標
      • AUC 0.9999
      • 感度 97.2%
      • 特異度 100%
    • 解釈性
      • 複数のCNNモデルの特徴を統合し、SVMにて明示的な分類境界を学習
    • 結論
      • 提案手法は専門家の関与を必要とせず、高精度に脂肪肝を分類できる可能性がある

    研究概要

    本研究では、肥満患者の腹部超音波画像を用いて、脂肪肝の有無を分類する新たなAI手法が提案されています。
    従来の研究では、単一のモデルの使用や、専門家によるROI(関心領域)の指定が必要とされていましたが、本手法ではそのような制約を克服するため、4種類の既存CNNモデルを活用し、それぞれから抽出した特徴量を統合したうえで、SVMによって分類を行う構成となっています。

    対象データ

    症例数55名(550枚の超音波画像)
    検体種Bモード腹部超音波画像
    施設・国ワルシャワ医科大学(ポーランド)
    研究デザイン診断性能評価、10-foldクロスバリデーション実施

    モデル構築

    モデルInception-ResNetV2
    GoogleNet
    AlexNet
    ResNet101
    SVM
    データ分割75%訓練/25%テスト(10-foldクロスバリデーション)
    パラメータ最適化特徴量抽出後、SVM分類器にてROC評価による最適化

    AIの解析内容

    特徴量重要度

    各CNNモデル(約1,000次元)から抽出された深層特徴量を統合して使用しています。
    仮に重複する特徴量があっても、正規化処理により影響が均等化される仕組みとなっています。

    Explainability

    画像全体から幅広く特徴を抽出する構造のため、特定の部位に依存せず分類が可能です。
    これにより、専門家によるROI(関心領域)の設定が不要となっています。

    提案されたAIモデルでは、超音波画像を前処理(リサイズやデータ拡張)した後、4種類の事前学習済みCNNモデルに入力し、それぞれから異なる視点の特徴量を抽出します。
    これらの特徴量を統合し、SVM(サポートベクターマシン)に入力することで、脂肪肝の有無を分類します。
    ResNet101単体でもAUC 0.9998と非常に高い性能を示しましたが、提案手法全体ではAUC 0.9999とさらに高精度な結果が得られました。
    加えて、GoogleNetおよびAlexNetでもAUC 0.996と良好な成績を示しており、深層学習モデルが肝疾患分類において有効であることが裏付けられました。

    検査技師の視点での注目ポイント

    • 腹部Bモード超音波画像のみを使用しており、血液検査やCTといった追加情報を必要としない点が、実臨床での応用に適しています。
    • 本研究では「専門家によるROI設定が不要」と記載されていますが、高精度な分類を実現するには、入力される超音波画像の品質が非常に重要です。
    • 「検査技師による撮影」と「AIによる分類」を組み合わせ、その結果をもとに医師が判断するという、協働型のワークフローの構築が求められるでしょう。
    • 適切な探触子の選択やスキャン角度の調整など、検査技師の対応力がこれまで以上に重要になります。
    • 特に古い装置や経年劣化したプローブを使用している施設では、AI解析に適さない画像が生成されるおそれがあるため、機器の管理・点検はAI時代の検査技師にとって重要な業務のひとつといえます。
    • AIの性能を安定して引き出すためには、標準化することが不可欠です。
      施設間での検査条件にばらつきがある現状では、AIが学習した条件と異なる状況で運用され、誤判定につながるリスクも考慮する必要があります。

    今後の課題とまとめ

    本研究では、超音波画像のみを用いて脂肪肝を高精度に分類するAIの開発に成功しました。
    中でも特筆すべき点は、ROI(関心領域)の指定が不要であり、既存の画像検査にそのまま適用できる点です。

    一方で、本研究で使用されたデータセットは限定的であるため、外部データを用いた汎用性や分類精度の検証が今後の課題といえます。
    今後は、大規模な検証や、リアルタイムでの診断支援への応用が期待されます。

    参考文献

    Zamanian H. et al. (2021) Implementation of Combinational Deep Learning Algorithm for Non-alcoholic Fatty Liver Classification in Ultrasound Images. J Biomed Phys Eng 11(1):73-84.
    DOI: 10.31661/jbpe.v0i0.2009-1180

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