【臨床検査技師によるAI論文解説】尿プロテオミクスと機械学習を用いたアルツハイマー病の新規診断パネル

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    導入

    アルツハイマー病(AD)は世界的に高齢化が進む中で、深刻な公衆衛生問題となっています。
    特に認知機能低下の前駆段階である軽度認知障害(MCI)を早期に発見し、介入することが、AD発症の抑制に重要とされています。

    従来のバイオマーカー(脳脊髄液検査やPET)は侵襲性や高コストが課題となっており、より簡便で侵襲の少ない検査法の開発が求められています。

    本研究では、尿を用いたプロテオミクス解析と機械学習を組み合わせることで、ADおよびMCIを高精度に診断可能な新たな診断パネルの開発を目指しました。
    尿は非侵襲的かつ収集が容易であり、体内の変化を早期に反映する可能性があります。

    プロテオミクス

    プロテオミクスは「プロテイン(タンパク質)」+「オミクス(網羅解析)」の造語で、体内で発現している多数のタンパク質を網羅的に調べることを意味します。

    研究の要点まとめ

    • AI手法
      • LASSO(特徴量選択)
      • SVM(分類器)
    • 新バイオマーカー
      • DDC、CTSC、EHD4、GSTA3、他計13種(AD診断パネル)
      • TUBB、SUCLG2、PROCR、他計10種(MCI診断パネル)
    • 精度指標(AUC)
      • AD:訓練0.9989/テスト0.8824
      • MCI:訓練0.9985/テスト0.8143
    • 解釈性
      • 特定尿タンパク質の発現と認知機能検査との弱い相関
    • 結論
      • 尿プロテオミクスと機械学習を組み合わせた診断パネルは、ADおよびMCIの早期診断に有用である可能性

    研究概要

    本研究では、中国の162名(AD 57名、MCI 43名、正常 62名)の尿サンプルを採取し、質量分析によるプロテオミクス解析を実施しました。

    608種類の尿タンパク質から、AD・MCI群と正常群で有意に異なるタンパク質を抽出しました。
    AI(LASSOとSVM)を用いて診断パネルを構築し、ADでAUC 0.8824、MCIでAUC 0.8143の診断性能を得ました。

    さらに、尿中タンパクと認知機能検査との弱い相関も確認されました。
    尿を用いた非侵襲的なAD・MCI診断法の可能性が示されました。

    対象データ

    症例数162例(AD 57例、MCI 43例、CN 62例)
    検体種尿
    施設・国日中友好病院・中国
    研究デザイン横断研究

    モデル構築

    モデルLASSO(特徴選択)、SVM(分類器)
    データ分割訓練70%、テスト30%
    パラメータ最適化10-fold クロスバリデーション

    AIの解析内容

    特徴量重要度

    AD(アルツハイマー病)診断パネル

    • 尿中タンパク質(13種類)
      • DDC、CTSC、EHD4、GSTA3、SLC44A4、GNS、GSTA1、ANXA4、PLD3、CTSH、HP、RPS3、CPVL
    • 年齢
    • APOE ε4(遺伝子型情報)

    MCI(軽度認知障害)診断パネル

    • 尿中タンパク質(10種類)
      • TUBB、SUCLG2、PROCR、TCP1、ACE、FLOT2、EHD4、PROZ、C9、SERPINA3
    • 年齢
    • APOE ε4(遺伝子型情報)
    Explainability

    相関分析により、DDCやCTSCなど複数のタンパク質が認知機能検査と弱いながらも有意な相関を示すことが確認されました。

    検査技師の視点での注目ポイント

    • 尿検体のみで検査が可能なため、採血や脳脊髄液の採取が不要で、患者への負担が少ない。
    • 神経心理検査や画像診断と組み合わせることで、有用な補助的バイオマーカーとなり得る。
    • 非侵襲的なスクリーニング法が普及すれば、認知症の早期発見・早期介入が進む可能性がある。
    • プロテオミクス検査は一般の臨床現場ではまだ普及しておらず、導入には設備や体制の整備が求められる。
    • 臨床検査技師がAIやプロテオミクスと連携することで、新しい検査項目の提案・運用に積極的に関与できる可能性を示している。
    • LASSO回帰を用いることで、多数の候補から13種類の特徴量へと効果的に絞り込まれた。
    • 少数データでも安定して学習できるSVM(サポートベクターマシン)を使用した点も、現実的なモデル構築として評価できる。

    今後の課題とまとめ

    本研究は単施設・小規模で行われ、他施設での再現性確認が課題です。

    また、尿中タンパク質の変化が血中や脳内と一致するとは限らず、機序解明が必要です。
    今後は多施設共同研究や長期追跡研究を通じ、尿プロテオミクスの臨床応用可能性をさらに高めることが期待されます。

    非侵襲的かつ高精度な診断パネルの開発に向けた重要な一歩と評価できます。

    参考文献

    Wang et al. (2023) Identification of novel diagnostic panel for mild cognitive impairment and Alzheimer’s disease: findings based on urine proteomics and machine learning. Alzheimer’s Research & Therapy 15:191.
    DOI:10.1186/s13195-023-01324-4

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