【臨床検査技師によるAI論文解説】血球の形をAIが読み解く 〜形態異常を見抜く診断支援システム〜

当ページのリンクには広告が含まれています。

    目次

    導入

    骨髄異形成症候群(MDS)や再生不良性貧血(AA)は、いずれも骨髄不全により血球減少をきたす疾患であり、臨床所見だけでは鑑別が困難な場合があります。
    特に、末梢血塗抹標本における血球の形態異常の評価は、高度な専門知識と経験を要するため、診断の属人性や作業負担の大きさが課題となっています。

    近年では、ディープラーニングを用いた画像解析技術の進歩により、こうした診断工程の自動化が進められています。
    本論文では、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)とXGBoostを組み合わせた新たなAIシステムを開発し、末梢血塗抹標本からMDSとAAを高精度に鑑別する技術を実現した点が注目されます。

    研究の要点まとめ

    • AI手法
      • CNNによる血球画像認識とXGBoostによる最終診断分類を組み合わせた2段構成
    • 新バイオマーカー
      • Pelger-Huet様核異常、好中球の脱顆粒、巨大血小板などの形態的異常
    • 精度指標
      • AUC:0.990
      • 感度:96.2%
      • 特異度:100%
    • 解釈性
      • SHAP値を用いた特徴量可視化により、診断に寄与する形態異常を個別に提示
    • 結論
      • 本AIシステムは、末梢血標本のみでMDSとAAを高精度に鑑別可能であり、実臨床での診断支援ツールとして期待される

    研究概要

    本研究では、末梢血塗抹標本における血球の形態的特徴をAIが自動で判別し、MDSとAAを鑑別する新たな診断支援システムの開発と検証を行いました。
    まず、ディープラーニングを用いて血球を17種類に分類し、あわせて97項目の形態的異常を同時に評価できる画像認識システムを構築しました。
    次に、XGBoostアルゴリズムを用いて診断モデルを作成し、MDSとAAの高精度な識別を実現しました。

    対象データ

    症例数訓練:MDS 75例、AA 36例
    検証:MDS 26例、AA 11例
    検体種末梢血塗抹標本
    施設・国順天堂大学病院(日本)
    研究デザイン後ろ向き観察研究(単施設)

    モデル構築

    モデルCNN(8層)+XGBoost
    データ分割トレーニング:検証=約95%:5%(画像ベース)、症例は別途分割
    パラメータ最適化Keras + TensorFlowによる最適化、SHAPにて重要度評価

    AIの解析内容

    特徴量重要度

    XGBoostによるSHAP解析の結果、MDSの鑑別においては、好中球の異常顆粒や脱顆粒、Pelger-Huet様核異常、巨大血小板といった形態的異常が強く寄与していることが明らかとなりました。

    Explainability

    MDS症例では、好中球の脱顆粒やPelger-Huet様核異常、巨大血小板の出現頻度が高く、これらの特徴がAAとの鑑別に有効であることが、SHAP値を用いた可視化により確認されました。

    また、CNNの特徴量をt-SNEで可視化したところ、前駆細胞群や類似形態を持つ細胞同士の判別がAIにとっても困難であることが示唆されました。誤分類は、形態の連続性が高い細胞間で多く見られ、今後のデータ拡充によって精度の向上が期待されます。

    検査技師の視点での注目ポイント

    • すべての形態情報は末梢血塗抹標本から取得可能で、追加の検査やコストは発生しません。
    • 画像取得にはSysmex社のDI-60が使用されており、標本作製・染色工程とスムーズに連携できます。
    • AIによる分類結果やSHAP値による可視化は、若手検査技師の形態学的判断力を育成する教育ツールとして活用できます。
    • t-SNEや混同行列を活用することで、AIの誤分類傾向を把握でき、見落としやすい所見の再確認やダブルチェック項目の見直しに役立ちます。
    • 属人性の高い形態診断をAIが補完することで、検査技師間や施設間の診断バラつきを軽減し、検査品質の標準化と再現性の向上に貢献します。
    • 本システムは、CNNにより血球を17種類に分類し、97項目の形態異常を同時に評価できる点が特長であり、従来、検査技師が目視で行っていた二段階の評価作業を一括で処理できます。

    今後の課題とまとめ

    本システムは、従来の目視による診断に代わる高精度なAI診断補助ツールとして実用性が高く、特にMDSとAAの鑑別が難しい臨床現場で有用です。
    ただし、訓練データが特定の施設に偏っている点や、症例数の少なさ、他疾患との識別が未対応であることが今後の課題です。

    さらに、骨髄塗抹標本や血清マーカー(CRPなど)を組み合わせた多因子モデルの構築も計画されています。
    将来的には、さまざまな形態異常に対応可能な汎用型のAI診断支援システムの実現が期待されます。

    参考文献

    Kimura K et al. (2019) A novel automated image analysis system using deep convolutional neural networks can assist to differentiate MDS and AA. Scientific Reports 9:13385.
    DOI: 10.1038/s41598-019-49942-z

    よかったらシェアしてね!
    • URLをコピーしました!
    目次