【臨床検査技師によるAI論文解説】ALTとALPでGGTは代用可能?肝機能検査の見直しにAIを用いる

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    導入

    臨床の現場では、肝機能検査(Liver Function Test:LFT)が日常的に行われており、一般的にはGGT、ALT、AST、ALP、ビリルビン、アルブミン、LDHなどが含まれます。
    しかし、これらの検査項目の中には、診断にあまり寄与しない“重複した”情報が含まれている可能性があります。

    本研究では、オーストラリアの2万5,000件以上の臨床検査データを用いて、GGTの有用性を再評価するため、AI(機械学習)技術を活用して予測モデルを構築しました。
    特に注目したのは、ALTやALPといった他のルーチン検査項目から、GGTの値を高精度で予測できるかどうかという点です。
    このような分析により、検査項目のスリム化が実現すれば、医療費の削減や患者の負担軽減につながる可能性があります。

    研究の要点まとめ

    • AI手法
      • 決定木(Decision Tree)
      • サポートベクターマシン(SVM)
    • 新バイオマーカー
      • N/A(ALTおよびALPは既存マーカー)
    • 精度指標
      • 決定木:最大90.2%(ALT+ALP)
      • SVM:最大82.6%(ALT+ALP)
    • 解釈性
      • ALT > 30 U/LかつALP > 125 U/LでGGT上昇を高精度に予測
    • 結論
      • ALTとALPでGGTを高精度に予測可能であり、GGTはスクリーニングから外すことが可能と示唆された

    研究概要

    本研究では、ルーチンの肝機能検査(LFT)に含まれるγ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)の冗長性を検証するため、機械学習を用いてGGTの予測モデルを構築しました。
    解析には、オーストラリア・クイーンズランド州の地域医療機関で取得された、男女・全年齢層を含む26,065件の非識別化検査データを用いました。

    対象データ

    症例数26,065例(18歳以上24,812例)
    検体種血清
    施設・国Sullivan Nicolaides Pathology(オーストラリア)
    研究デザイン観察的・後ろ向きコホート研究

    モデル構築

    モデル決定木(rpart)、SVM(e1071パッケージ)
    データ分割トレーニング70%、テスト30%、10-fold CV
    パラメータ最適化SVM:γ=0.1、Cost=10または100

    AIの解析内容

    特徴量重要度

    ALTおよびALPの寄与度が最も高く、他の項目(AST、LDH、アルブミンなど)の寄与度は低い結果となりました。

    Explainability

    ALTが30.5 U/L超、かつALPが121.5 U/L超である場合、GGT異常(カテゴリ1)と分類される確率は90%以上でした。

    決定木分析の結果、ALTとALPの2項目のみでGGTの正常・異常を90.2%の精度で分類できることが示されました。また、SVMによる交差検証では82.6%の精度が得られました。
    性別による解析では、男性における予測精度は90%を超えた一方で、女性ではやや低下し、約70%となる傾向が確認されました。

    さらに、ALTおよびALPにAST、LDH、アルブミン、ビリルビンといった他の項目を追加しても予測精度は向上せず、むしろ低下する場合もありました。
    一方で、高GGT群に限定してALT・ALPに加え尿酸およびコレステロールを組み合わせた解析では、ALPとコレステロールの間に興味深い負の相関が示唆されました。
    これは、GGT異常が脂質異常やアルコール摂取と関連している可能性を示しています。

    検査技師の視点での注目ポイント

    • 初回スクリーニングではGGTを除外し、ALTおよびALPの結果に基づいて判断したうえで、必要に応じてGGTを追加測定する「二段階方式」が現実的なアプローチと考えられます。
    • GGTが異常であっても他の項目が正常であれば“見逃し”のリスクは残りますが、本研究ではALTとALPにより高精度な予測が可能であるため、臨床アウトカムへの重大な影響は少ないと推察されます。
    • 本研究のように、AIによる検査項目の価値評価をもとに「この検査は状況に応じて省略可能です」と科学的根拠をもって医師に提案できれば、検査部門のプレゼンス向上につながります。
    • 検査技師は“単なる実施者”から“検査コンサルタント”としての役割を担う契機となる可能性があります。
    • GGTは温度や時間の影響を受けやすい酵素であり、日常的な品質管理(QC)や再検確認が必要です。測定頻度の低下は、これらのQC作業の負担軽減にも寄与します。
    • ALTおよびALPの2項目によってGGTを代替できれば、LFT全体の検査項目数が削減され、1検体あたりの使用試薬量や分析時間の短縮が可能となります。

    今後の課題とまとめ

    本研究では、2万5,000件を超える大規模な臨床検査データにAIを適用し、ルーチン項目の一つであるGGTの予測可能性および冗長性を評価しました。
    ALTおよびALPの2項目でGGT異常を高精度に予測できるという知見は、今後の検査項目の見直しや診療の効率化に対して重要な示唆を提供します。

    ただし、GGTはアルコール依存症や心血管疾患リスクのマーカーとして独自の臨床的意義を持つため、すべての症例において一律に除外すべきではありません。
    今後の課題としては、診療科別・症例別の適応評価や、AIを用いた意思決定支援ツールの導入などが挙げられます。

    参考文献

    Lidbury BA, Richardson AM, Badrick T. (2015) Assessment of machine-learning techniques on large pathology data sets to address assay redundancy in routine liver function test profiles. Diagnosis 2(1):41–51.
    DOI:10.1515/dx-2014-0063

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